郷土はなし(第七話)

神明の森の「おたつ」狐

 黒田地区に伝わる民話に、神明の森の「おたつ」狐という話がある。
 今の鳥取中学校の東側あたりと記憶するが、一段と小高い土手があり鬱蒼とした森が生い繁り、そこに神明社の祠が祀られており、一帯を神明の森と呼ばれていた。          
 そこに「おたつ」という女狐が棲んでいて黒田のお百姓さんが夜、田んぼに水を引きに行ったり、石田の方に用事に行き話が長引き夜になったりして田んぼ道をトボトボ家路を急ぐと、透きとおる様な色白の娘が現れ二言三言話しかけられているうちにすっかりこの娘に惚れ込み、後ろについていき夜通し小さな溝を越えたり小橋を渡ったり同じ道を行きつ戻りつ東の空が白む頃になり気がつくととんでもない所に居たり、また念のいった人は波有手の墓地近くをうろついていて早起きの村人に声をかけられ初めて女狐に騙されたことに気がつくといった話が伝わっている。
 神明社とは当時お伊勢さん信仰が盛んで伊勢大神宮の分社として各地に祭られていたもので明治の神社併合のとき石田の鳥取神社に合祀され、その波多神社のお祭りのときお神輿がお旅所としている今の国道26号線黒田交差点の三本松には、むかし見上げるような大木の松が三本あり、そこにも「かんなべ」という狐がいてよく道行く人を騙したと伝えられている。
 またその東側の上荘小学校あたりにあった「下出のから池」といわれた空き地には東西に池の名残りの堰堤があってそこにも松林があり人を騙すという狐が棲んでいて、から池で水もないのに気がつくとビショ濡れになっていたという怖い話を子供の頃よく聞かされたもので、そばを通るのが怖く尾崎方面から夜遅く帰る道では下出の村はずれから鳥取中の入り口まで、今の国道あたりはまったく人家もなく真っ暗闇で身の気がよだちジーンとして動きがとれなくなったことが想い出される。