郷土はなし(第一話)

自然田の「虫送り」

(虫おくりのわらべ)

 私がまだ子供のころ、私の住む自然田には毎年夏の行事の1つに「虫送り」という習わしがありました。
 当日は「今夜は虫送りやで」と村の人達がふれまわし、準備にとりかかります。青竹を切ってきて、節を2・3個抜いてそこに油をしみこませた布を入れ、その上にわら束を差し込んだ「たいまつ」を作り、陽が落ちるのを待つのです。
 今の「さつき台」の下の橋の辺りだったと思いますが、そこにみんなが集まると一斉に火をつけ、それを担いで自然田の瑞宝寺の和尚さんを先頭にして大きな太鼓を2人で前後を担ぎます。
 横からたたく人、鐘をならす人達が田んぼ のあぜ道を一列になって 「ちんかかちんかかどんでんどん 虫おーくり送った ど―こまで送った ちんかか ちんかか どんでんどん」と口々に調子を合わせて進んで行く様は、暗い野道にちょろちょろ燃える光の帯と、賑やかな鐘や太鼓の音の行列と共に、子供の頃の遠い思い出として残っています。
 たいまつの行列は家々の田んぼをひと回りして、今の和泉鳥取の朝日小学校の下の高田池の堤防まで行きます。
 担いで来た「たいまつ」を集めて燃やすとその火に虫が集まり飛び込んでパチパチ音をたてていました。
 そこで和尚さんが読経して虫供養をし、終りになるのですが、昔は農薬も無く、こうした原始的な行事で大切なお米の害虫退治をしたものだと思います。